日本ブリーフサイコセラピー学会 第20回長崎大会 2010 8/26〜28

大会企画シンポジウム

大会企画シンポジウムT 8月27日(金)9:30-12:00
大会企画シンポジウムU 8月28日(土)9:30-12:00


大会企画シンポジウムT

セラピーと非セラピーの間で
〜組織のソリューションから学ぶこと


企画者
小関哲郎(別府あおやま心理教育研究所)

司会
長田清(長田クリニック)

シンポジスト
藤洋吐(胃腸科藤クリニック)
小森誠嗣(浦添総合病院検診センター)
豊田ひろみ(奈良県高田こども家庭相談センター)
五島光(経営戦略研究所株式会社)

概要
セラピストは診察室などで一対一で個人病理を治療するため、集団を扱うことが苦手な場合が多い。組織の改善、発展、生産性向上、利益追求などには無縁な立場にある。しかし近年、解決志向アプローチが組織に適応されて、職場組織の中で一定の成果を上げている。個人を変えるのも組織を変えるのも同じ原理である。
今回、医院での人事管理、検診センターでの業務改善、職場で人間を動かす方法などについて、セラピー以外のところで使われている解決志向アプローチについて、話を聞いてみたい。ツボはどこか、そのやり方からセラピーに活かせることを学びたい。

<シンポジウム内容>

「組織内のコンプリメントを増やしたら支え合いの企業風土に」
藤洋吐 (藤クリニック)
 変化は常に起こっている。職場においてもいいことはどんどん見つけて繰り返す。いいところ探しの習慣が身についたら、職場の空気が明るくなったという報告です。今回ご紹介するのは、1)いいところ探しの習慣を身に着けることになった表彰状推薦、感謝状推薦制度の導入と2)見つけたいいところを相手に伝えるためのスキルを磨くOKメッセージ勉強会の取り組みです。表彰状推薦、感謝状推薦制度は、はじめは勤務評定の負担を分担するためにはじめました。週一件の各推薦を義務付けた事で同僚を見る目が変わりました。ミスをフォローする為にあら捜ししていたのが、推薦するためにいいところを探すようになりました。いいところを見ているから、注意を促すときにも思いやりのある優しい言い方が出来ている。だから安心して素直に助言を聞ける。そして職場が好きになる。

「解決志向アプローチによりご機嫌な職場へ一歩善進」
小森誠嗣 (浦添総合病院健診センター)
 健診センターに携わる職員が職種の枠で組織の壁を作り職種間での情報伝達の遅延や管理職間での意思疎通に障害をきたしている状況があります。特に互いの問題に焦点をおいた意識がさらに意思疎通を困難にしています。今回、問題にとらわれず解決に焦点をあてる解決志向アプローチを用いて職員の主体性を大切にして「どうなりたい」「どうしたらいい」をテーマに目標設定し、肯定的なことに向けての解決を構築して職場環境改善を試みました。その結果として意志の疎通が改善し協働の環境が構築されつつあります。管理者が職員の主体性に視点を置くことで、いろんな良い変化の連鎖が起こりました。プラスの眼鏡をかけて、ご機嫌な職場へ一歩前進した状況をご報告したいと思います。

「変化の兆しを探すには〜面接外要因も活用するために〜」
豊田ひろみ (元 奈良県高田こども家庭相談センター)
 心理療法やサイコセラピーの効果研究によると、技法間の違いや、セラピストの経験年数よりも、セラピストのスキルやセンスが、結果を規定していることは既に知られている。最新の研究では、それ以上に、面接外要因(例えば、偶然旧知の友人に会った、仕事に就いた)が、クライアントの変化と強く結びついていることがわかってきた。こうなると、クライアントの「直る方法」は一様でなく、実は生活の中に直るきっかけ・変化の兆しが備わっているとも考えられる。これを利用しない手はない。当日は、私が児童福祉司としての相談活動の中で体験したことや社会資源利用のこと、組織内で体験をリフレクティングしあうことで、組織成員が技術力をつけ、健康さを保ってきたことをお伝えしたい。

「希望と期待と可能性の職場づくり〜1人1人が笑顔でがんばるために」
五島光 (歯科コンサルタント)
 働く理由の大半が「生活のため」。近い将来の夢は「結婚すること」。時間をお金のために切り売りし、医院や患者さんのことは考えない。そんな"やる気がない”20代前半の女性たちが全国の歯科にはたくさんいます。歯科医院の経営をよくするには院長1人の力ではどうしようもありません。経営トップである院長とスタッフたちが協力して、医院をよくしていくことが必要です。そのために、解決構築アプローチを軸にした対話、組織作りが大変有効であることが、この数年の実践でわかってきました。”やる気がない”女性スタッフたちの変化を促すため、どのようにリソースを引き出し、活用していけばいいのか。「期待と希望と可能性」をキーワードに、他の分野でも応用できると思われる方法を、私の事例を通して皆さんと共有していきたいと思います。

大会企画シンポジウムU

”ブリーフ”からみたセラピーの効果について

企画者
児島達美(長崎純心大学)

司会
北村文昭(青山学院大学)

シンポジスト
伊藤拓(安田女子大学)
酒井佳永(順天堂大学医学部精神医学講座)
サトウタツヤ(立命館大学)

概要
 “学習効果”や“ダイエット効果”のように “効果”という言葉自体は,比較的共通理解が得られているでしょう.しかし,“セラピーの効果”となるとその効果自体について活発な議論が起こりそうな気がします.伊藤先生から,ブリーフセラピーの実践を通して,言わばブリーフの内側から見た“効果”を披露していただけるものと思います.酒井先生には,RCTという“量的な効果研究”,またうつをサポートする医療という“現場で体感する効果”など幅広いお話をいただく予定です.サトウ先生は,心理学全体を包含する視点から,そして質的研究からみた臨床心理学における“効果”について鋭いコメントをいただきたいと考えています.

<シンポジウム内容>
「効果の評価者そして享受者」
北村文昭(青山学院大学)
 心理療法の効果について、最もセンセーショナルな記憶として残るものは、アイゼンクの“心理療法には効果がない”という発言でした。時は流れ、わが国でも心理療法がまがりなりにも一定の地歩を得てきたと言えると思います。日々の実践においては私たちクリニシャンも何がしかの効果を期待して仕事に従事しているはずです。ところが、“心理療法の効果”について考えてみると、これがなかなかの難物です。この難しい課題への取り組みを学会の内外で心理療法とさまざまに関わって来られた先生方にお願いしました。
 伊藤先生のお考えを広げると、現場のクライエントに対してソリューションフォーカストセラピーが発揮する“解決への接近力”という効果のお話になりそうです。
酒井先生については、量的な指標を用いた効果研究を心理療法に適用する方法について、実際の研究事例を挙げながらお話いただく。その中で、効果研究における効果が臨床現場における効果とは乖離するという問題にも触れていただけそうです。
 サトウ先生は、臨床に限定されない広い視野から、心理療法の問題を効果という切り口からお話いただきたいと思います。特に“ブリーフ”を学会の外から見てコメントもいただきたいと思います。

「SFAの質問の効果―その多様性と発現のポイント」  
伊藤拓(安田女子大学)
 ソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)では解決を構築するために種々の質問を用いるが,それぞれの質問にどのような効果があるかについては,あまり検討されていない。発表者はこれまで,SFAの質問の効果に関する研究を行い,SFAの質問には多様な効果があるが,その効果が発現するかどうかは,セラピストがSFAの質問をいかに用いるかに懸っていることを理解してきた。当然のことではあるが,クライエントによる解決の構築というSFAが目指す「効果」を得るためには,セラピストが対話の流れの中で「効果的に」SFAの質問を用いる必要があるのである。本発表では,SFAの質問の効果に関する発表者の研究を紹介するとともに,実践の中で,SFAの質問の効果を発現させるためのポイントについて論じたい。

「心理社会的介入における量的指標を用いた効果研究の方法と限界」
酒井佳永(順天堂大学医学部精神医学講座)
 1990年代に始まったエビデンスに基づく医療(EBM)の流れは、近年、保健医療領域全体に広がってきた。心理療法も例外ではなく、統計学や疫学を用いた効果を示すことが求められるようになっている。しかし薬物療法を中心に発展してきた効果評価研究の方法論を心理療法にそのまま適用しようとする場合、さまざまな困難や限界が生じる。当日は、EBMが推奨する「高度な科学的客観性」に基づく効果を示すための方法論について解説し、これを心理社会的介入に適用する際に生じる問題、推奨されている解決方法、限界について、具体的な研究事例を挙げて論じる予定である。また実証的な効果評価研究を計画、実施、報告する過程について具体的に解説し、心理療法における実証的な効果評価研究を有効にかつ臨床の実際に沿った形で実施したり、その結果を利用したりするためには、どのような点に留意すべきかについても考察する。

「心理学及び心理療法における効果と効率の文脈」
サトウタツヤ(立命館大学)
 心理療法に限らず「効果」を問題にするときには、効果というよりは「効率」を問題にしていることが多い。効率は「割り算」を含むものであり、分母はコストである。コストは経費や時間など量的な指標であるから、分子にも量的な指標が求められることになる。 こうした姿勢がエビデンスに基づく医療(EBM)を経由して心理療法にも影響している。だが、(効率を隠し)効果を前面に出して証拠を出せと迫るロジック自体が、社会的歴史的に構成されていると考えることは重要である。
 当日は、心理療法における「効果」の歴史的位置について検討し、量的指標化のもつ方法論的問題点、質的変化を捉えるためのシステム論的・構成主義的工夫、などについて話題を提供したい。



日本ブリーフサイコセラピー学会